フィンランド:コロナ禍

フィンランドでのコロナの状況を報告

非常事態が日常に。淡々と過ごす日々

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「小さな取り組みが大きく影響」と衛生管理への注意を喚起するポスター

武漢ウィルスの殺傷力が周知のこととなって一月あまり。漠然とした不安は募る一方ながら、秩序は保たれているフィンランド。「ウィルスをばらまきに来た!」というような吉外はいない。

以前にも書いたけど、厳しい状況を国民一丸となって乗り切ろう、という基本認識が形成されている印象。1939年~44年にかけての冬戦争、継続戦争に通じる国民意識を感じる。ちょっと大げさかな。そしてこれが民族差別を助長する恐れは現実的。指摘のないのが不思議である。

 

最近は「非日常」が「日常」になっている。さまざまな場所で注意喚起。上掲写真は国立保健福祉研究所による「咳・くしゃみをするときのマナー」、「手洗いの方法」を示したもの。ショッピングモールのところどころにアルコール消毒液が置かれ、「他人との距離をとりましょう」といった注意喚起アナウンスが控えめに流れる。

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食料品店にはアルコール消毒液が設置。最近は利用者が多い

図書館、室内遊技場、カフェ等々はとっくに閉鎖されたため、戸外を出歩く人が多い。晴れの日が増え、気温も徐々にあがってきたから散歩が気持ちよい。幸い、フィンランドのどこに住んでいても、少し足を伸ばせば森林浴を楽しめる場所がいくらでもある。
旅行に行けないし、繁華街に出る気もない。そういった人々で、散歩コースへの人出は従来の倍増といった感じ。ヌークシオ銀座の異名を持つ某焚火場は過密状態。森林省が別ルートの利用を誘うほどだ。

 

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屋外、知人との会話でも距離をとるのが最近のマナー

首都圏封鎖は当初の予定を前倒しにして昨日終了。感染者3237人、うち死者72人と微増してるのに、大丈夫か? との懸念はぬぐえない。

営業自粛は粛々と進む

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ショッピングモール内のレストランも休業に

日本でもしばらく前から「不要不急の外出は控えましょう」と呼びかけられていたようだが、SNSなどを見ると「不要不急じゃないけど散歩に出かけた」などと訳の分からない記述が散見し、ダメだこりゃ、と思ったものだ。クラスターやらなんやらとともに、言葉が通じていないのだろう。「緊急かつ重要な場合以外は外出するな」と呼びかければよかったのではないだろうか。それでも巣鴨とげぬき地蔵通りは4月4日の縁日が大盛況だったそうだから、何を言っても無駄ということか。 

いっぽう、フィンランドでは着々と自粛が進んでいる。はっきりとした時期は覚えていないが、大手チェーンに続いて個人経営のレストランも休業。持ち帰り商品の販売のみとなった。 

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スーパーやコンビニ内にも設置されるほどに普及


それに先立ち、スロットマシンの使用が禁じられた。不特定多数がゲーム機器に触れるわけだから感染の危険性が高い。現金(コイン)がそのまま出てくる点も危ない。 

フィンランド政府がコロナの蔓延を危惧し始めたのが3月10日。ゲーム機は14日より全面的に使用禁止になった。素早い対応だ。
パチンコ同様に中毒性があり、多くのフィンランド人が止められないほどに人気があるもの。余談ながらその収益は社会福祉に当てるのが建前なので、パチンコとは異なって有益性があるにも関わらずである。利益より健康を優先したわけだ。 

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日本でも人気のH&Mもご覧の通り

続いて一般店舗の客足は激減。衣料品の購入は不要不急であるケースが多いから、それはうなづける。眼鏡店は接触の可能性が高いからか? それにしては美容院、理髪店にはそこそこの客が入っている。
近郊列車の乗客は一車両に多くて2~3人。線路わきで観察しただけだから正確には分からないが、ガラガラであることは遠目でもわかる。バスは路線によっては乗客ゼロ。

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たまたま無人の時に撮ったんでしょ、と言われると否定できないが……

これらを見る限り「無人の町」のように感じるかもしれないが、あえてイメージを伝えるために写真を選んでいる。いずれもヘルシンキの隣町、エスポー(Espoo)での撮影だが、実際の人出はヘルシンキより多いのではないか? 屋外では特にそう感じる。
とはいえ、ヘルシンキは2か月ほど訪れておらず、WebCameraで見ているだけなので、実態は分からない。

 4月10日時点での国内感染者は2769人。うち48人が死亡した。

 

じわじわ迫るコロナの影響

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コロナ新規感染者の推移(3.2~27)

ちょっと古いが、過去2か月ほどの感染状況(THL・国立保健福祉研究所発表)。

これによると新規感染者は3月10日から増加傾向を示し(20人/日)、月末には80人に達している。グラフにはないが、4月上旬には一気に200人まで急増。その後、50人/日程度に下がったため、THLは「感染のスピードを抑え込みつつある」と公表したものの、感染者の総数は依然として増加している。 その証拠に「拡散のピークは4月中旬」(同時期に学校再開の予定だった)としていた予測を「5月中旬」に訂正、さらに「6月にずれこむ」と言い換えた。抜本的対策が取れない以上、先行きが読めないのは無理もないが、果たして6月に収束方向に進むものか。きわめて不安である。

 

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安全間隔として客同士を1.5m離すためのマーク

パニックに陥らないで済むのは、日常生活は一応機能しているため。食料品店の商品は若干少ないながらも、不自由を感じるほどではない。店舗も感染を防ぐための施策を遂行。客の間隔をあけたり、レジにはアクリル板のカバーを設置。原則として現金は受け取らず、人と人との接触を避けるように努力をしている。

が、不愉快なことも経験。ある日、スーパーですれ違いそうになったフィンランド人が慌てて逆戻り。アジア人である私を見て「コロナが来た」という恐慌に陥ったのがあからさまだった。知人のタイ人は「中国に帰れ」とののしられたという。すべての中国人がウィルス保持者ではないし、そもそもワシらは中国人じゃないよ。

これからはそんな差別が増えていきそうな懸念も否定できない。

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飛沫を避けるためのアクリル板。中央には「現金ご遠慮ください」のお知らせ

 

この期に及んで海外旅行?

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ヘルシンキへの5日間ツアー。ウソではないにしても・・・

後先を考えない海外旅行でコロナに罹患した責任の一端は旅行会社にあるわけだが、現状はどうか。日本発フィンランドツアーを検索してみた。

さすがに4月中のツアーは見当たらなかったが、5月以降だといくつかみつかった。
そのうちの一つが「ヘルシンキ5日間」というもの。
フィンエアーもしくはJAL直行便なら5日間の行程はポピュラー。いわゆる3泊5日という日程で、ヘルシンキのホテルに3泊。丸々二日は自由に使えるし、初日は市内に5時ごろ着くから、夏場ならその後も観光を楽しめる。帰国日も一時くらいまでは余裕。郊外都市も訪れるならちょっと物足りない、といった程度。

しかしこのツアーはそんなものではない。
初日は空港集合。出発は翌日未明。経由便利用のため、ヘルシンキに着くのは同日深夜。3日目はフリーだが、帰国便は早朝初。5日目深夜に成田着というスケジュールだ。片道40時間をかけて、ヘルシンキ観光は一日だけ。

果たして、こうまでしてヘルシンキに来る人がいるのだろうか。仮に需要があるとしても、旅行会社はこれまでの惨事をなんとも思っていないのか。
まあ、様子を見て出発時(たとえば5月1日)に状況が好転していなければ催行中止、予約金は全額返還ということになるのだろう。3月にフライト予約を受け付けていたカタールやSASの4月便はすべてキャンセルされた。上掲の5月便もおそらく取りやめだろう。

とりあえずは商品(ツアー)を販売しなければならないという事情は分かる。しかし、飛行機が飛ぶ保障はないし、出発後に状況が悪化することも十分ありえる。ヘルシンキに着いたはいいが帰れなくなりました、となる可能性もあろう。なにより、仮にコロナ禍が沈静化したかにみえても、罹患する危険性はぬぐえない。それを承知で販売するのだから、時節柄を考慮せずに旅行する人々だけを非難することはできまい。

それでも日常生活は続く

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お菓子のばら売りコーナーは空に

依然として拡大傾向が止まらないコロナ禍。さまざまな制限下で日常生活が続いている。政府が示したコロナ対策は行きわたっているというのが印象。現時点での施策の数々を列挙してみよう。一月前とは大きく変わっている。

・学校は5月中旬まで休校(当初は4月13日までを予定)
・10人以上の集会を禁止(500人⇒50人と推移後)
・カフェ、レストランは休業。ハンバーガー、コーヒー等の持ち帰りのみ許可
・店舗では客同士が1.5メートル以上離れることを推奨
・多くの店舗に消毒液設置
・首都圏閉鎖は依然として続行

先行きの見えない事態に不安はあるが、各種の規制に不満はない、といった状況。突発的な集会を開いたり、海外に出かける人もいない。この辺は統制がよく取れていると思う。


スーパーマーケットの品ぞろえは、騒動以前に戻りつつある状態。乾燥パスタや小麦粉などが完売していることもあるが、4~5日もすれば補充されている。全体としては依然の8割くらいの在庫かな。
そうした中、商品が全くない棚を発見。お菓子のばら売りコーナーである。通常だとここには一口大のチョコレートやキャンディー、グミ等々が数十種類あり、お客は好みのものを好きなだけ袋詰め。グラム単位で清算するというもの。駄菓子の量り売りといえばいいだろう。フィンランド人はこの手のお菓子が大好きなのだ。

 

そんな人気商品が全くない。「ああ、これは学校が休みで家にいる子供たち向け、あるいは自宅待機でTVでも見ながらつまむのだろう。それで買い占められたのだな」と思った。たまたまポテトチップスコーナーもほとんどカラになっていたので、推測が裏付けられたような気がした。ポテトチップスもフィンランド人の必需品だからね。

しかし、実情は違った。量り売りは専用のスクープを使うのだが、不特定多数の人間が素手で触れてしまう可能性もある。なにより商品はむき出しの菓子なので、空中飛散しているウィルスが付着する危険性は十分にある。そうした配慮からの措置だ。調理パンの類も従来は無造作に棚積みしていたが、現在では一つひとつが個別包装されている。

 

果たして日本での対策はどの程度進んでいるのだろうか。漏れ聞く限りでは、どうも緩い気がしてならない。

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トイレットペーパー復活。ペーパータオルは品薄状態

 4月1日時点での総感染者数は約1500人。

もはや日本に帰れない

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3月28日、ヘルシンキを中心とした首都圏を封鎖。境界を超える移動は制限され武装警官が警備にあたるという非常事態になったので当然だ。封鎖は4月19日まで続く予定。

こうした中、4月以降も維持するはずだったフィンエアーの日本直行便はすべて取りやめ。再開の目途はたっていない。

 

以下は机上プランだが、フィンランドから日本に行くすべはないのか、とチケット予約サイトを検索してみた。すると上掲スケジュールのような可能性が。4月6日というのは仮の出発日。
カタール航空を使い、ヘルシンキ⇒ロンドン・ヒースロー⇒仁川⇒成田という経路。40時間以上かかるうえ、往復運賃は40万円を超える。それでも行かねばならない人もいるだろうが、もう一つの問題がある。日本での入国に関することである。

 

日本人が日本に入国すること自体は可能だが、厳しい制限も加えられることになった。3月21日午前零時以降に到着した場合、その後の移動に公共交通機関を使うことが禁じるというのが一つ。バス・電車はもちろん、タクシーの利用も不可。。国内便への乗り継ぎもできない。知人に迎えに来てもらうか、レンタカーを手配して自力で移動するしかない。

 

さらには14日間の待機命令。待機先は「検疫所長が指定する場所」とされ、基本的には自宅。自宅のない私などはホテル住まいになるが、2週間の滞在費といったら・・・。さらには帰国便(日本⇒フィンランド)が運航される保証はないのだ。
そういうわけで、帰国は実質的に不可能になった。

旅行会社の責任はどうする?

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フィンエアー、日本直行便を停止

3月上旬のことだが、知人がフィンランド旅行についての打診をしてきた。当然ながら、やめるように勧告。そうしたら案の定だ。フィンランド「など」に滞在していた女性がコロナ発症。3月17日に二例があった。「フィンランド“など”」という表記ではなく、訪問国を明らかにしてほしいものだが、イタリアでの爆発的な拡散以降、ヨーロッパは危ないというのは常識になったと思っていた。
が、実情はまるで違う。

 

3月中旬、フィンエアーは運航の9割減を発表。が、同社のドル箱であるヘルシンキ⇔日本(5空港)の路線は維持。ヘルシンキ⇔羽田で予定していた増便はとりやめ、という方針を示した。4月以降もバンバン飛ばしますよ、ということだ。楽観に過ぎないか、と感じたことを覚えている。3月15日時点のヘルシンキ⇔成田の往復料金は7万円を切っていた。

そういうわけで、3月中旬くらいまでなら、いくらでも海外旅行が(少なくとも予約は)できたわけだ。学校も休みだし、ツアーがあるなら行っちゃおう、と考える人がいてもおかしくはない。浅はかではあるが、しょうがない。売ってるんだから。

 罹患の可能性は十分に推測できた

3月2日から13日にかけて欧州を旅行してコロナに罹患をした京都産業大学の学生たちに批判が集まったのは記憶に新しい。発症後の行動は非常識ではあるが、2日の出国時点で、彼らに危機感はなかっただろう。旅行を見合わせるように助言した人もいないはずだ。そりゃそうだ。大手旅行代理店が販売してるんだもの。

17日に帰国、発症した事例に関してはもう少し慎重になるべきだったのでは、との思いもあるが、旅行会社の責任のほうが大きい。3月2日には「ヨーロッパ=危険」というのは既定事項になっていたのに、堂々と販売していたのだから。その時点で旅行会社がツアーを中止していれば、彼らが罹患することはなかったのである。なお、当社では2月20日以降の予約はすべてキャンセル、当面の催行は不能である旨を通知した。しかし、弱小会社(当社)の訴えが世間に影響を与えることは全くなかった。 

某大手旅行会社の3月26日の公告

※出発日:2020年5月3日までの出発 : 催行中止
※出発日:2020年5月4日以降の出発 : 今後の状況を鑑み改めてご案内いたします。

 時すでに遅し。一月前に決断すべきだった。